平成日本紀行(131)九重 「九重山の二院」
九州地方の皆さん、此の度の大震災に謹んでお見舞い申し上げます。
(この記事は震災以前のものです)
九重山法華院山荘(白水寺跡)
久住山猪鹿狼寺(くじゅうさんいからじ)
「九重山法華院白水寺」は九重連山に囲まれた「坊がつる」の一角に在り、1470年に天台宗の修験場として建立され、修験僧の出入りでにぎわいを見せたという。
江戸期は武運長久、家内安全を祈願する寺であるとともに国境の警備の任にもあたっていたが、明治になって神仏分離政策で藩からの禄もなくなり、支院は山を下りて本坊観音堂(弘蔵坊)だけが残ったという。
現在は「法華院温泉」として後を継いでいる。
この地は標高1300mの四面を深山に囲まれた御存知「坊がつる」であるが、”坊”はその名の法華院を指し、“つる”は山間の平坦地のことで“吊る”にも通じ、「山々を支える御坊である」という意味をもつとされる。
一方、「久住山猪鹿狼寺」(くじゅうさんいからじ)は国道442号線(日田往還)の久住登山口(南登山口)にあり、天台宗の山岳修行地として平安期に創建されている。
久住山に対する 山岳信仰 は古くから山頂の「上ノ宮」をはじめ、久住神社を「下宮・猪鹿狼寺」をもって「神宮寺」としている。
以前は山号を大和山慈尊院と称し、そしてこの地は殺生禁断の霊場であった。
時は鎌倉期の頃であった・・! 、
幕府を開いた源頼朝は武勇奨励のため好んで巻き狩りをし、特に富士山麓の「巻狩り」は有名な話である。 この頃、頼朝の家臣であった大友氏(豊後大友氏;相模の国、小田原大友郷が出実とされる)が九州の豊後国(現大分県:豊後・筑前・筑後など北九州を支配した守護職)に任地され本拠とした。 大友氏は当時の頼朝に倣ってこの久住山一帯で巻き狩り、狩猟をしたといい、この時、夥しい獲物が有ったとされ、併せて霊場を汚したということで畜類供養をすることになった。 大友氏は、将軍・頼朝にこの事を問うたところ、頼朝は供養と同時に従来の「大和山慈尊院」を「久住山猪鹿狼寺」と改名するように命じたとも言われる。
ここまでは寺院山号も山域の名称も、呼び名は「くじゅう」であることに相違はない。
ただ昭和期になって、この山域一帯、山麓、高原帯、その他を阿蘇に含めて「国立公園」になることが決まり、一旦、「阿蘇国立公園」という名称が決まった。
その後、1953年にはやまなみハイウェイの整備を前提に、沿線となる由布岳、鶴見岳、高崎山(高崎山自然動物園)を拡張指定。
1986年には大分県知事および当時の関係7市町村の陳情を経て、「阿蘇くじゅう国立公園」と改称されたという。
では何故平仮名の「くじゅう」なのか・・?、
その名称についてやはりと言うか「九重」にするか「久住」にするかで、其々の主張を繰り返し大論争が起こったと言う。
結局、苦渋の選択で平文字の「くじゅう」と呼ぶことに収まり、1986年(昭和61年)に「阿蘇くじゅう国立公園」と設定したという。
まったく笑い話のような一席である。
この山地の四季の移ろいや、九重山の火山の遍歴を記した「古文書・九重山記」(くじゅうさんき)には「 春は緑色となり、夏は青色となり、秋は赤色となり、冬は白色となる 」と書かれ、地元の山愛好者等には親しく読まれている。
九重の山で育った者にしてみれば「九重山」でなければならず、観光地であればカナ・「くじゅう」でも仕方ないが重みがないと言う。
九州の岳人、山愛好家は「九重に始まって九重に終わる」と言われ、九重山をカナ・「くじゅう」と書くようになってから、山ヤを対象にした本当の意味での九重山は失くなってしまった・・、と嘆いているという。
1955年(昭和30年)町制が布かれてからは「九重町」(ここのえちょう)となり、地域に関連した固有の名称は「九重」に「ここのえ」の但し書きが記してあるという。
そして「久住町」は「くじゅうちょう」(竹田市久住町)である。
次回は、その「久住」へ・・?
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